ONSEN
熊本県
小天温泉
Oten Onsen
温泉
かつて海がすぐそばにあったという話を聞くと、ちょっとふしぎな気持ちになるんです。干拓で海岸線が遠のいたいまも、この土地にはどこか潮の記憶のようなものが残っていて、湯に浸かっているとそのことをぼんやり考えてしまうんですよ。
夏目漱石が歩いた道がまだここにあって、那古井館という宿は『草枕』にちなんで名前をあらためたのだと聞くと、物語と現実がゆっくり溶けあっている場所なんだなあと思うんです。前田家別邸をたずねると、かつて思想家たちがここに集まって語りあった時間の厚みのようなものが、建物のそこかしこに静かにただよっています。
長く泊まるには、ふだんの暮らしにすこし文学がまじるような、そういう穏やかな距離感がちょうどいいんですよね。生活の拠点として考えると、玉名の町からすこし離れた静けさが、かえって居心地のよさになるんです。訪日の旅人にとっては、日本の近代文学がどんな風景のなかで生まれたのかを、自分の足で歩いて確かめられる、そういうたのしみがある場所なんですよ。
ONSEN
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