ONSEN
愛知県
塩津温泉
Shiotsu Onsen
温泉
川の音がずっと聞こえているんです。野々瀬川という、すこし舌の上で転がしたくなるような名前の流れに寄り添って、塩津温泉はぽつんとあるんですよ。重曹泉のやわらかい湯は、もともと林業や農の暮らしのなかで体をほどくためのものだったんだなあ。
昭和のはじめに秀山荘が開かれてから、この谷間にはずっと同じ速さの時間が流れているような気がするんです。浸かって、歩いて、また浸かる。東海自然歩道が山稜の上を通っていて、尾根から降りてきた足をそのまま湯に沈められる、そういう場所なんですよ。
長く泊まるなら、芳泉荘を拠点に渓流釣りの日と何もしない日を交互に並べるのがちょうどいい。ふだんの生活圏から遠いぶん、暮らしの輪郭がはっきり見えてくるふしぎさがあるんです。訪日の旅人には、新美南吉が『山の中』で書いた風景がそのまま残っている、という一点だけで充分な理由になるんじゃないかなあ。
バスとタクシーを乗り継いでたどり着く、その手間ごとうれしくなる谷なんです。
ONSEN
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