ONSEN
長野県
白骨温泉
Shirahone Onsen
温泉
湯船に手を沈めると、乳白色のなかに指先がすうっと消えていくんです。白骨温泉の湯は、そういうふしぎな濃さを持っている。鎌倉の昔からこの山峡に湧き続けてきた硫化水素の湯は、空気に触れるとしろく変わり、やがて石灰の殻をまとって噴湯丘という天然の造形物をつくる。
その時間の重なりが特別天然記念物になっているんだなあ。梓川のせせらぎだけが夜通し聞こえて、ほかにはなんにもない。歩ける範囲はごくちいさくて、宿も十軒ほど。でも、その閉じた地形がかえって「ここに泊まる」ということの輪郭をはっきりさせてくれるんです。
長く滞在するほど、からだが静けさのほうに合ってくる感覚がある。ふだんの暮らしの拠点をいくつか持つひとにとって、ここは「なにもしない」を選ぶための場所になりうる。海の向こうから来た旅人には、中里介山が書いた秘湯の気配がそのまま残っている山里として、ちょっとほかでは味わえない時間が待っています。
浸かって、眠って、また浸かる。それだけの繰り返しが、ここではいちばん正しいんですよ。
ONSEN
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