温泉
この場所の物語
木立のなかに、かつてお湯が湧いていたんです。愛知県の山ふかく、天竜奥三河国定公園の丘陵地に抱かれた添沢温泉は、もう今はない温泉地なんだなあ。雲泉閣山の家という一軒宿が、明治のころからずっとここで湯を守っていた。重曹泉というのは、肌にやさしくとろりとした感触があって、浸かるだけで体がすこしほぐれていくようなお湯なんです。
三つの浴場と離れ座敷がいくつもあって、泊まるというより、しばらく居つくための場所だったんでしょう。戦時中には子どもたちが疎開してきて、戦後はユースホステルとして若い旅人が歩いてたどり着いた。そういう時間の層が、この土地にはふしぎと重なっているんです。
2011年に閉館し、やがてダムの水に沈むことになった。訪日客にとってはもちろん、日本人にとっても、もう歩いていくことのできない場所になってしまった。
泊まるなら
一日では、たぶん足りない。
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