ONSEN
石川県
山中温泉
Yamanaka Onsen
温泉
渓谷にかかる橋を渡ると、川の音がふいに近くなるんです。大聖寺川沿いの鶴仙渓を歩いていると、足もとの水音がずっとついてくる。山中温泉というところは、そういう「音の湯」みたいな場所なんだなあと思います。奈良の時代にはじまったとされる湯に、芭蕉が八泊もしたというのは、ここの時間の流れがよほど手放しがたかったのでしょう。
共同浴場の菊の湯に浸かると、九谷焼のタイルが壁にあって、湯けむりの向こうにこの土地の縁起絵巻がぼんやり浮かぶんです。ゆげ街道をすこし歩けば山中漆器の店があり、ふだん使いの椀にふれることもできます。長く泊まろうとすると、街のサイズがちょうどいいようで、ちょっと物足りないようで、そのあいだを行ったり来たりする感じがあります。
暮らしの拠点にするには山あいの静かさと引き換えに覚悟がいるけれど、その覚悟ごとたのしめるひとには合うんです。訪日の旅人にとっては、漆の手仕事と湯と渓谷が一本の道でつながっている、そのまとまりがふしぎに心地よいはずです。
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