温泉
この場所の物語
山のなかに、一軒だけ灯りがある。そういう場所って、なんだかふしぎと落ち着くんですよ。かすみ温泉は、秋田県由利本荘市の山間にひっそりと立つ一軒宿で、湯は単純硫黄冷鉱泉なんです。冷鉱泉というのは、そのままでは冷たい湯を沸かして浸かるもので、加温されてもなお、硫黄のにおいがやわらかく漂うんだなあ。
宿の裏には、県の天然記念物に指定された「葛岡のカスミ桜」という古桜が佇んでいて、その存在がここの時間のながさを静かに教えてくれるんです。長く泊まるほど、この山の呼吸のようなものが、すこしずつ体に入ってくる気がします。多拠点で暮らす人には、ふだんの速さをいちど手放せる場所として、記憶に残るんじゃないかな。
国道沿いとはいえ、訪日客にとっては「一軒宿に歩いて行く」という体験そのものが、すでに旅の核心になると思うんです。
泊まるなら
一日では、たぶん足りない。
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