温泉
この場所の物語
登山靴の紐をしっかり結んで、ふたつの時間ほど山道を歩く。そうしないとたどり着けない温泉が、まだあるんですよ。三斗小屋温泉は、電気も届かない、携帯の電波もない、郵便すら届かないという場所にあるんです。ふだんの暮らしから、ぜんぶ引き算したところに湯が湧いている。
そのふしぎさが、この温泉の手触りそのものなんだなあ。長く滞在するというより、山を歩いた一日のおわりに浸かる湯で、からだと頭がすこしずつほどけていく、そういう時間の場所です。会津中街道の宿場として人が行き来していた昔の道筋が、三斗小屋宿跡としてちゃんと残っている。
泊まるのは山小屋で、朝と夕にごはんが出て、それだけでうれしくなるんです。暮らしの拠点にはならないけれど、暮らしとはなにかを考えさせてくれる場所ではある。訪日の旅人にとっては、日本の温泉が山の奥にまで静かに息づいていることを、足の裏で知る体験になるんじゃないかなあ。
泊まるなら
一日では、たぶん足りない。
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