温泉
この場所の物語
下駄の音が、からころと川沿いに響いていくんです。大谿川の柳並木のあいだを、浴衣すがたのひとたちがゆっくり歩く。それが城崎温泉のふだんの景色なんですよ。ここでは浴衣が「よそゆき」ではなくて、まちを歩くための正装みたいなもので、そのふしぎなルールがまち全体をひとつの大きな湯屋にしているんだなあ。
七つの外湯をめぐって浸かるたびに、すこしずつ体の力が抜けて、歩く速度がゆるくなっていくのを感じるんです。一の湯は江戸の頃に「海内第一」と呼ばれたという筆頭格で、志賀直哉がこのまちで静かに自分を見つめた話も、どこかでつながっている気がします。
長く泊まるには観光地としてのにぎわいがすこし近いけれど、逆に訪日のひとにとっては木造三階建ての旅館が並ぶ通りそのものが、日本の温泉の原型として腑に落ちやすい場所なんですよ。多拠点の暮らしにはちょっと華やかすぎるかもしれない、でもときどき帰ってきたくなる、そういう距離感のまちなんです。
泊まるなら
一日では、たぶん足りない。
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