温泉
この場所の物語
ひとの背丈をゆうに超える雪の壁のなかに、ぽつりと灯りがともっている。月山志津温泉というところは、そういう場所なんです。もとは六十里越街道の宿場町で、出羽三山をめざす人たちが足をとめていた。仙台屋やつたやといった宿には、三百年をこえる時間がしずかに積もっているんですよ。
ふしぎなのは、温泉そのものが湧いたのはわりと最近のことで、それまではお湯のない宿場だったんだなあ。湯が出てからは、ふだんの暮らしのなかに「浸かる」がすこし加わって、街道の宿場がそのまま温泉郷になった。冬になると雪で旅籠をまるごとつくって灯りをいれる「雪旅籠の灯り」というものがあって、歩くだけで江戸の夜にまぎれこんだような気分になるんです。
長く泊まると、雪の重さと静けさが一日のリズムをつくってくれる。多拠点で暮らす人には、ここの「なにもしない濃さ」がちょうどいい。はじめて日本に来た人には、これほど雪と人の暮らしが近い風景は、ほかではなかなか出会えないものだと思います。
泊まるなら
一日では、たぶん足りない。
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